優しくて、あたたかくて、少し寂しい ― 大好きな作品『夏目友人帳』を語る回
小さい頃から時々、変なものを見た。
他の人には見えないらしいそれらは、おそらく妖怪と呼ばれるものの類。
先日、映画とその舞台挨拶のライブビューイングを見に行った。
その作品は十年以上前からアニメが放送され、第六期と番外編、二度の劇場版が製作された大人気シリーズである。
その名も『夏目友人帳』。
著者は作品の名前やトレードマークの猫(?)のことはずいぶん前から認知していたのだが、先月末たまたま視聴する機会があり、そこで初めて『夏目友人帳』の世界に触れることになった。
この一年は家で過ごす時間が増えてちょっと自慢できるくらいの数のアニメを見てきたのだが、この作品の唯一無二の魅力に囚われ、たった一週間でシリーズをすべて視聴し(つまり、六期分+αを見たということである)、先述の通り映画館にも足を運んでしまった。
我ながら驚きを隠せないほどのハマりっぷりである。
今回は著者をもあっという間に魅了した『夏目友人帳』の良さを広めたい一心で記事を書くこととした。
あらすじ
小さな頃から妖怪と言われるものの類が見えた夏目貴志。それゆえ周囲の人間からは気味悪がられ、「嘘つき」と疎まれてきた。幼いうちに両親を亡くして親戚の間をたらいまわしにされ、友人もなく、人間にも妖にも心を閉ざし切っていた孤独な過去がある。
ある時妖から逃げた先の神社で、招き猫のような姿をした妖怪・斑(まだら / ニャンコ先生)の封印を解いてしまったのをきっかけに祖母・レイコの遺品「友人帳」の存在を知る。
祖母も同じく妖を見ることができた人で、友人帳とは妖に勝負を挑み勝った証として妖の名前を書かせた紙の束のこと。名前を書かれたものに強い拘束力を持つもののようである。ゆえに、夏目は友人帳目当ての妖によく狙われるのだった。
死後友人帳を譲り受ける約束で用心棒になったニャンコ先生とともに妖へ名前を返していく中で、夏目は仲間や大切な人たちとの絆を深め、出会いと別れを繰り返し、さまざまな想いに触れていく。
猫チャン。
夏目友人帳のここが好き!
キャラクターが魅力的
夏目は悲しい過去を背負っているが、お人好しなほどの優しさは健在で、今の自分を取り巻く仲間や大切な人たちとの平穏な日々を守るためにはどんな苦労も厭わない。
物腰が柔らかく達観したようなところがあるが、案外頑固だったり無邪気だったり、子どもっぽい面も見せる。
人間と妖のはざまで悩み、揺れ動くこともあるが、誠実にひとつひとつと向き合って自分なりの答えを出そうとする姿には毎度勇気を与えられる。
余談だが、妖からよく狙われる割には呪術などの身を守る術を一切持たず(これも行き過ぎたお人好しな性格故か...) 、うわあー!と叫びながら正拳突きをかまして逃げ去るという原始的な方法でこれまでもなんとか修羅場を乗りきってきたようだ。信じがたいが意外とそういうシーンがよくあるもんだから、著者は夏目が豪運の持ち主なのではないかと密かに思っている...。
夏目の相棒・ニャンコ先生は自称用心棒であるが、しばしば自由奔放・能天気な性格で夏目を振り回す。
食い意地が張っていて、よく夏目に食べ過ぎだと叱られている。三期ではそれまでと比べて重量感が増して描かれるようになったことを夏目役の神谷さんが指摘しているほどだ(夏目の肩に乗っかっていたニャンコ先生が、三期からはおしりがズリッと垂れ下がっているんだとか...)。
ちょっとポンコツだが、人間と妖の両方を思いやる夏目を物好きだと嘆きつつ最後まで見届けてくれたり、斑の姿のときには雰囲気をガラリと一変させ、妖から守ってくれるなどなんだかんだ頼りになる。
"プリチー"な外見を自称しているが、大抵は「ブタネコ」「インチキ招き猫」「猫だるま」などと散々な呼ばれ方をしている様子。
著者は夏目とニャンコ先生が大好きで、この二人の掛け合いは作品の中でも特にイチオシポイントである。思わず笑ってしまうようなシーンがたくさんある。
優しくて、あたたかくて、少し寂しい
この記事のタイトルにもある表現だが、著者が夏目友人帳の最大の魅力だと考えているのは、観終えたあとに優しくてあたたかい気持ちになれることだ。
この作品は、誰かが誰かを想う気持ちを繊細に描いている。
妖の願い、妖と人間の間にある絆に加え、友人の田沼や多軌からの理解、西村や北本の深入りしない優しさ、共に暮らしている藤原夫妻からの家族愛など、夏目は多くの想いの渦の中にいる。
夏目自身も心配を掛けないために偶然事情を知った田沼と多軌以外には妖が見えることを隠し通すという、穏やかな日々を守るための決意をしている。
また、友人帳の名前を返すことで、同じ痛みを知っている、唯一血縁の近い祖母の記憶をなぞっているわけだ。
また、物語の中では人間と妖という違う世界を生きる者同士ゆえのままならないすれ違いや別れなどが描かれ、やるせなく苦しい気持ちに出会う。
だが、その寂しさや切なさも、それを上回るほどの強く、優しい想いがそっと包み込んで肯定してくれる。また前を向かせてくれる。
夏目友人帳は想いで溢れている。
好きなエピソード
ここで、夏目友人帳の中から著者が好きなエピソードを挙げたいと思う。好きなエピソードしかない、というほど各回がおすすめなのだが、キリがないので三つに絞るという苦渋の決断をした。
好きなエピソードのほんの一例ではあるが、先述の魅力はこれらを見るだけでも伝わるのではないかと思う。
①子狐のぼうし(一 第七話)
公式サイト
夏目は学校の勉強合宿で訪れた森で、妖にいじめられている子狐を助ける。それからも夏目が気になる子狐は友人帳を目撃し、自分も子分にしてほしいと頼むが...。
まっすぐで健気な子狐に胸を打たれる。子狐は参の第八話など、のちにも登場回がいくつかある。
②幼き日々に(参 第四話)
公式サイト
電車で見かけた街がかつて親戚を転々とするなかで住んだことのある街だと気づいた夏目は当時を思い返す。幼い頃の夏目と、優しい妖の救済の物語。
③蔵にひそむもの(参 第五話)
公式サイト
多軌の家の蔵掃除を手伝うことになった夏目と田沼。蔵にいた妖が多軌の祖父がばらばらに封じた身体を集めようと屋敷中を探し回っているようだが...。多軌と、妖を愛しながらも見ることができなかった祖父と、妖たちの想い。
夏目が妖を退治したり使役したりすることを生業とする、名取や的場など呪術師たちとの出会いを経てからも物語は一層深みを増す。また、塔子と滋、西村と北本など、夏目以外のキャラクターにフォーカスしたものもあり、見ごたえあるエピソードになっている。一話完結のものが多いので、気軽に視聴できるのもうれしいところだ。
ちなみに原作は緑川ゆきさんが月刊『LaLa』で連載されている漫画である。最新刊が26巻まで出ている(2021年1月発売)。
冒頭に挙げた劇場版『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』も上映劇場が追加されたので、足を運びやすくなった。
アニメは単にバトルや恋愛ものだけではない。
ぜひ『夏目友人帳』の世界に触れて、感動体験とともに、アニメ観が塗り替えられる感覚を味わってみてほしい。